連盟設立にあたり

我が国は、歴史的に見ても比類なき世界の文化先進国として急速な発展を遂げてきた。そして、日本各地至る所に劇場やホールなどの文化施設が設けられ、文化振興のための公的な法整備もあって多種多様な文化活動が推進されており、世界的な劇場国家といえる立場にまでなってきたのである。

 

 しかしながら、日本文化の現状は、まだまだ理想的な姿に近づきつつあるとは考えられない。とくに、劇場運営の要ともいえる劇場技術分野においてはその周知性もままならず、技術力及び創造性の地域格差や劇場技術者の地位の不確立など国際的な視野を持って解決すべき幾多の難問に直面している。また、天災や未曽有の経済不況の影を拭えきれないなかでの社会的に厳しい財政状況から、文化およびその振興にかかわる予算や経費が縮小している。劇場・ホール等で働く人々にとって潤いある人間関係や生きがいの喪失、新たな創造を生み出すための思想の欠如や国民にとって豊かな心の文化を育むための道義道徳が混迷に陥っているのではないかとの指摘もなされている。これらの原因はいろいろ考えられるが、帰するところ、文化国家の未来を開く長期的展望にいささか欠けるものがあるのではなかろうか。

 

 同時に、いかに立派な理念や法律が確立されても、それを実際に力強く具現していく為政者をはじめ文化および劇場界の指導者に人を得なければ、これはなきにひとしいのである。このことは、劇場での実際の仕事にも深くかかわることであり、劇場技術者にとっては他人ごとではなく、恒常的に創意工夫する技術力が大切になる。それ故、我が連盟は劇場技術の伝統と維持に努めるとともに、その力を結集してその技術を多様な分野における新しい文化芸術の創造のために発揮する機会の拡充に努めることを目的とする。幸いにして、歴史的に独自の文化をもつ我が国ながら、その芸術性と人材資源はまことに質の高い豊かなものがある。まさに、人材、とりわけ将来の指導者や優秀な劇場技術者たりうる逸材の開発と育成がさらに求められる。そして、活性する劇場ホールの運営、劇場芸術や技術の向上を目的とした交流、それらに関する情報紙や図書の発行、地方創生のための公演事業を展開することなども大事である。これらを具現することが多くの難題を有する我が国の劇場界にとって、緊急かつ重要な課題であるといえよう。

 

 私たちは、このような観点から、真に劇場を運営する技術と制作や演出など劇場に関わる全ての仕事を愛し、将来の日本をよくしていこうとする有為の人々や法人組織などの幅広い参加によって、研修や講習会等を実施するとともに、必要な調査、研究、啓蒙、事業などの活動を行う日本劇場技術者連盟の設立を決意した。この連盟においては、有為の人々が、人間とは何か、芸術文化創造とは何か、基本的な命題を考察、研究し、国際社会における文化理念や我が国のビジョンを探求しつつ、実社会生活の体験研修を通じて文化芸術をはじめ、もろもろの芸能活動における劇場技術はいかにあるべきかを、幅広く総合的に自習、さらに活用し、強い信念と責任感、力強い実行力、国際的な視野を持って活動したいと考える。

 

そして、広く国民の期待に十分応え、日本国内及び海外の文化芸術の振興に貢献することを積極的かつ恒常的に活動していくためにも、公共的な機関として運営推進するのが肝要と思う。よってここに、そのための第一歩として一般社団法人日本劇場技術者連盟の設立を発起する次第である。